毒とジュエリー時々整体

日々のつぶやき

収容所からきた遺書



8月15日に寄せて




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「収容所から来た遺書」







私の祖父はシベリア抑留され

奇跡的に生還している。

しかし、そのことについてはどんなに訊いても

決して話してはくれなかった。


だからシベリア抑留について書かれたものを

私はむさぼるように読んできた。

そこに書かれている中に祖父の姿を探した。


この本もそんな中の一冊だった。


これはノンフィクションではあるが

本人の体験談ではない。

主人公はシベリアで亡くなっており

作家、辺見じゅんさんによって書かれたものだ。


凍てついたシベリアで捕虜たちは

毎日過酷な労働を課せられる。

ひときれのパンと薄いスープだけの食事

不衛生な環境

誰もがひたすら下を向いて耐える中

主人公だけは違った。

彼は空を見上げて雲を眺め

風を感じ、空気の中に季節を知る。

そして、詩作に励むのだ。


主人公の鋭い感性や、優しいまなざしは

少しずつ収容所内で広まり

詩作の同志も集まり始める。


しかし

シベリアでは抑留者たちは

変な思想を持たないようにと

紙もペンも取り上げられていた。

それでも、心までは支配させない、と

密かに集い、凍りついた地面に字を書いて

詩を書くことをやめないのだ。


主人公の真摯な姿、静かな情熱

どんな困難な中にあっても、

そこでできることをする姿…

読みながら何度涙が溢れただろう。


しかし、帰国の夢も叶わず

主人公はシベリアの地で亡くなってしまう。


その時、詩作の同志たちは

主人公の遺書を手分けして覚え

帰国したら奥さんに届けようと約束するのだ。

(遺書とはいえ紙を持っていたら没収されるため

頭の中に入れて持ち帰ろうとしたわけだ)


これが小説であれば

手分けして覚えた遺書をみんなで届けて

大団円、ということになるであろうが

やはりそこはノンフィクション

実際はそう簡単にはいかず

帰国して日本の地を踏んだとたん

きれいさっぱり忘れてしまった人もいたそうだ。

奥さんのところへ行くのが何年も経ってから

という人もいたとのこと。


それでも、これは本当に素晴らしい作品。


沢山の方に読まれることを

願ってやまない。