毒とジュエリー時々整体

日々のつぶやき

老舗の喫茶店にて



とても古くていい感じのセピア色した

老舗の喫茶店に座っていたら

斜め前の席に年配の男性がきた。

見るからに上質なスーツを着て

パリッとした格好をしている。


その老紳士はとても優雅な手つきで

ゆっくりとタバコを吸った。

それから鞄からリボンのかかった

小さな箱を取り出し、ためつすがめつ眺め

それを脱いだ上着の下に隠すように置いた。


コーヒーが来ると

味わうようにちびちび飲んでいる。

絵になるのでつい目が引き寄せられてしまう。


コーヒーを飲みながら、気になるのか

時折上着の下に置いている箱を取り出し

なんとなくウキウキとした様子で眺めている。

早く渡したくてたまらない感じが

傍観者の私にも伝わってくる。


腕時計を何度も確認し

あきらかにソワソワしている。


こんなにめかし込んだ老紳士を

長いこと待たせているのは

一体どんな相手なんだろう?


やがて…

息せききってドスドスと音を立てて

やってきたのはアラフォー?アラフィフ?

そこそこのお年とおぼしき女性だった。

慌てて来たのか髪はボサボサで

服装もテキトーなヨレヨレの普段着。

特にお化粧もしておらずやたら声がデカい。


老紳士はこの人に会うためにこんなに

身なりを整えてパリッと決めているのに

相手は全くおしゃれをしていないなんて

そんなのかわいそう過ぎる!


女性は席につくや

まくし立てるようにペラペラと話し始め

紳士はウンウンと静かに耳を傾けていた。


なんとなくだが

大学教授とその教え子だったのかな?

と思った。


上着の下に隠してある贈り物を

渡すところまで見届けたかったけれど

私もこの時は連れがいたので

後ろ髪引かれながらも喫茶を出た。


素敵な老紳士だったな。

そして、お洒落は会う相手のためにするもの

という誰かの言葉を思い出し

これはまったく至言だ、と思った。